事前確定届出給与による社会保険料削減スキーム(介護保険有りで試算、神奈川県)
【ケース1】
月額給与150万円、賞与なし=年収1,800万円
健康保険・厚生年金の個人負担1,673,628円、会社負担1,701,720円⇒合計3,375,348円
【ケース2】
月額給与30万円、賞与1,440万円=年収1,800万円
健康保険・厚生年金の個人負担1,003,591円、会社負担1,021,952円⇒合計2,025,543円
【ケース3】
月額給与なし、賞与1回1,800万円=年収1,800万円
健康保険・厚生年金の個人負担467,011円、会社負担472,412円⇒合計939,423円
【ケース4】
月額給与なし、賞与2回900万円×2=年収1,800万円
健康保険・厚生年金の個人負担604,261円、会社負担615,062円⇒合計1,219,323円
年収1,800万円を給与と賞与に振り分けた場合
ケース1とケース3の社会保険料差額 2,435,925円
賞与に係る保険料額
賞与に係る保険料は、賞与額から1,000円未満の端数を切捨てた額(標準賞与額)に、保険料率を乗じた額になります。
また、標準賞与額の上限は、健康保険は年間573万円(毎年4月1日から翌年3月31日までの累計額)となり、厚生年金保険と子ども・子育て拠出金の場合は、月間150万円となります。
この上限があるため
・賞与1,440万円の場合
健康保険 年間上限573万円×11.51%(総負担率)=659,523円(半額個人負担)
厚生年金保険 月間上限150万円×18.30%(総負担率)=274,500円(半額個人負担)
子ども・子育て拠出金 月間上限150万円×0.36%(会社負担のみ)=5,400円
となります。
賞与が573万円を超えると賞与の社会保険料は同額となるため、賞与1,800万円でも同額となります。
厚生年金と子ども・子育て拠出金は月間での上限となるため、賞与を複数回支給するとその分発生します。
健康保険は年間上限のため、④のケースでは2回目の賞与時に健康保険は0円になります。
事前確定届出給与とは
会社が役員に対して、あらかじめ役員への賞与の額と支払時期を確定し、税務署に届出(提出期限あり)をして届出書の通りに支給する賞与のことです。あらかじめ賞与額を届け出ているので利益操作の余地がないとして、役員賞与でも損金算入が認められています。
上記のように月額給与を抑えて事前確定届出給与(賞与)を支給することにより、社会保険料を大幅に削減できますが、リスクもあります。
【リスク1:手続きミスによる役員賞与全額損金不算入】
(1)届出書の提出忘れ
事前確定届出給与を利用するには下記のいずれか早い日までに「事前確定届出給与に関する届出書」を提出する必要があります。この期限までに提出が間に合わない場合は利用できなくなってしまい、毎年同制度を利用するのであれば、毎年出し忘れには注意しなくてはなりません。
1.職務執行開始日もしくは株主総会等の決議日のどちらか早い日から1ヶ月
2.事業年度が開始した日から4か月後
法人税の確定申告書の別表一の「決算確定の日」が基本的には職務執行開始日になるとお考えください。
3月決算で令和8年5月25日に株主総会を行った場合、令和8年6月25日が期限となります。
株主総会決議日から1月を経過する日が事業年度開始後4月を超えている場合には、事業年度開始後4月が期限となります。
(2)届出どおりに支給しなかった
令和8年7月と令和8年12月にそれぞれ100万円の賞与を支給することを定め、届け出た場合で
令和8年7月は100万円支給したが、令和8年12月は30万円しか支給しなかった場合
⇒事前確定届出給与は、その職務執行期間に係る支給の全てが定め通りに行われたかどうかで判定されます。
そのため30万円だけではなく、事業年度中に支払った全額130万円が事前確定届出給与に該当せず、損金不算入になります。
ただし事前確定届出給与の支給が事業年度をまたぐ場合には、直前の事業年度の課税所得に影響が出ない取扱いになっています。
∴職務執行期間を通じて、事前に届け出た金額通りにすべて支給するか、一切支給しないという形をとる必要があります。
届け出た日付・金額を忘れず、しっかり管理する必要があります。
【リスク2:役員退職金の減額リスク】
役員退職金の計算は、主に「功績倍率法」が用いられ、「退職時の最終報酬月額 × 役員在任年数 × 功績倍率」で適正額を算出します。
この退職時の最終報酬月額に賞与は含まれないと考えるのが判例などの主流です。
毎月の役員報酬の金額を下げると、役員退職金の損金算入限度額が下がるのでご注意ください。
また事前確定届出給与の支給予定日前に死亡すると、遺族に受給権がないとされるリスクがあります。
【リスク3:その他のリスク】
・支払方法の異常性
法人税法に、報酬のうち、その役員の職務の内容、その法人の収益及び使用人に対する給与の支給状況、その法人と同種同規模の事業を営む法人の役員に対する報酬などからみて過大と認められる部分は経費にならないと規定しています。
この中で、使用人に対する給与の支払状況という部分が問題となる可能性があります。
使用人に対して、給料はぐっと下げ賞与でたくさん支払う形をとっていないので、この差異を指摘されるリスクがあります。
・利益調整の乱用
事前確定届出給与は、各人別の届出であり、損金算入・不算入も各人別に判定されます。
取締役A、B、Cそれぞれで届出をしていたが、Aだけ支給して、BCに支給しない場合、Aに届出どおりに支給すれば、A分は損金に算入されます。
この点を利用し、毎年複数の役員に対する事前確定届出給与を提出し、毎月の利益を見ながら支給する人を決めるなど利益調整に利用できる側面があります。
複数年度で上記の行為を行われている場合、利益調整のために事前確定届出給与を利用しているとし、否認リスクが発生します。
・毎月貸付をしている場合には実質課税リスク
・違法性のリスク
役員報酬を意図的に低く設定し、生活費を補うために会社から毎月貸し付けを行い賞与で精算する行為は、お金の流れとしては毎月の給与の支払と変わらないため、実質的な役員報酬(定期同額給与)とみなされる可能性があります。これが発覚した場合、社会保険の等級が遡って変更され、追徴金が発生する可能性があります。
・税務否認のリスク:
形式的には貸付であっても、実質的には毎月の役員報酬の支払と変わらない場合には、税務調査で役員報酬と認定され、損金算入が否認される可能性があります。
【その他】
・賞与支払届の提出
役員賞与を支給した場合、「賞与支払届」の提出が必要です。
・提出期限:支給日から5日以内
・提出先:年金事務所または健康保険組合
② 賞与を年4回以上支給する場合の手続き
賞与を年4回以上支給する場合、「賞与支払届」を提出する必要はありません。
年4回以上の賞与は、標準賞与額ではなく標準報酬月額の対象となります。